[木箱納入先へのインタビュー]福島工業高等専門学校
学生たちの未来を形にする空間へ
〜福島高専インキュベーションルーム × 木のはこ屋〜


2025年、福島工業高等専門学校(福島高専)に新たな創造の場が誕生しました。
その名も「インキュベーションルーム」。このリノベーションプロジェクトでは、木のはこ屋が手がけるオーダーメイドの「木ばこ」什器が、カウンターテーブルや本棚、仕切りなど多用途に活用されています。木の香りに包まれた空間は、学生たちの感性を刺激し、創造的な挑戦を後押ししています。
この施設は、文部科学省の「福島の創造的復興に向けた教育拠点強化事業」の一環として整備されました。令和4年度より開始された「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」の延長線上にあり、高専生の社会実装力や起業家精神を育むための学内拠点としての役割を担っています。
ー なぜ「木ばこ」だったのか? 記憶を刺激する素材との出会い

「東京で使っていた素朴なりんご箱が忘れられなくて――」と語るのは、設計を担当した一級建築士で特任講師の佐藤民部先生。荒削りでザラザラとした質感、鉄釘で留められたシンプルな構造。少年時代の工作や文化祭の記憶を思い出させるような、どこか懐かしい存在だったといいます。
インキュベーションルームの構想が立ち上がったとき、佐藤さんの頭にまず浮かんだのが、その素朴な「木ばこ」。「これは使える」と直感し、すぐに調査を始めたところ、青森県で木製什器を手がける「木のはこ屋」にたどり着きました。
「既製品には出せない空気感、自然素材の持つ風合いと手触り。それが、この空間にぴったりだったんです」。木のはこ屋との打ち合わせでは、サイズ展開、名入れ加工、素材の選定まで細やかなカスタマイズが可能な点が評価され、正式に採用が決定しました。
ー 名入れ「木ばこ」に込めた“個”と“学校”のアイデンティティ

今回納入された「木ばこ」には、福島高専のロゴを焼き印として名入れする仕様も盛り込まれています。
実はこのロゴデザインにも、あるこだわりが隠されていました。
フォントデザインは、佐藤さんが東京時代に交流のあったフォント専門のデザイン事務所に学内での使用許諾を依頼。ロゴの持つ「公」の雰囲気と、木の箱が持つ「私」のぬくもりを融合させるデザインが生まれました。「ただの収納家具ではなく、この空間の象徴として存在感を放ってほしかった」と語ります。
このように、名入れには単なる目印以上の意味が込められていました。学校の誇りと、空間への愛着を自然と育んでいくための装置として、学生たちの意識をゆっくりと変えていく効果を期待しています。
ー 学生の“感覚”に届く、五感で感じる居心地

インキュベーションルームの扉を開けると、まず学生たちが驚くのが「香り」です。
「最初に入ってきた子が、『何の匂い?』って必ず言うんですよ」と話すのは、特命助教の金子佳央先生。
アカマツ材の持つ清々しい香りが、自然と深呼吸を促します。
次に彼らがするのは「触る」こと。「木ばこ」に手を添えたり、肘をかけたり。無意識のうちに木のぬくもりを感じ取る行動が見られ、他のどんな家具よりも身体になじむ様子が印象的です。金子先生は「学生の嗅覚や触覚に届いている感じがする」と語ります。
このように、木の箱は“教材”ではなく、“媒介”として存在しています。学生たちが自然と集まり、会話し、アイデアを交換する空間。その中心にあるのが、木の什器なのです。
ー 使い方は、学生が決める

プロジェクトの進行にあたって、敢えて“完成形”を用意しなかったという点も、今回の大きな特徴です。
「ガチガチに用途を決めてしまうと、発想が広がらない。あえて未完成にして、学生が関わる余地を残した」と話す佐藤氏。最初のスケッチは「カフェのような空間」。結果的に学生たちからも「カフェみたい」「ここで勉強したい」との声があがっており、直感的に居心地の良さを感じてもらえているようです。
また、空間運営自体を学生たちが担っていくという構想もあります。ポスター制作や案内板のデザイン、イベントの企画運営など、一つひとつをプロジェクトとして任せていくことで、空間そのものが“育っていく”仕組みを意識しています。
ー 教員や地域をも巻き込む「木ばこ」の可能性

教職員にも好評で、「教員会議で初めて使ったとき、先生方も自然と歩き回って空間を楽しんでいた」と総務課の吉田隆敬係長。木の香りに誘われて、什器の裏側まで覗き込む先生もいたほどで、学生同様に“感覚”で場に惹き込まれていた様子がうかがえます。
一方で、教員側も「アントレプレナーシップ教育」自体が初の試み。いまだ「何をする場所なのか」という問いに向き合いながら、学生と共に“形にしていく”過程にあるといいます。
このインキュベーションルームは、単なる起業支援の場ではなく、NPO・地域政策・ものづくり・アートなど、広く創造的な活動を育むための実験場。学生だけでなく、地域企業や自治体、外部団体と連携しながら、多彩な価値を生み出していく“結節点”としての役割も期待されています。
ー 未来を担う若者に“触れる実感”を

「今の若い人たちは、スマホやデジタルの情報はすぐ手に入る。でも“触れる経験”が少ない」。
そう語る佐藤氏の言葉が印象的でした。実際に手で触れて、香りを感じて、空間に身を置くことで得られる“生の体験”。
天然木の「木ばこ」は、その媒介となる存在として、静かに力を発揮しています。「自分の居場所を、自分たちでつくる」――そんな経験を通じて、学生たちの中に新たな感性や挑戦が芽吹いていくことを、心から願っています。
今後もこのインキュベーションルームから、学生たちの新たな挑戦やアイデアが次々に生まれていくことでしょう。木のはこ屋としても、この取り組みに関われたことを光栄に思いますし、引き続き教育・地域・創造をつなぐ活動に寄り添っていきたいと考えています。

- 福島工業高等専門学校
- [住所] 福島県いわき市平上荒川長尾30
- [電話] 0246-46-0700
- [ホームページ] https://www.fukushima-nct.ac.jp
設計・監修:
- 66_11MJD W&H 佐藤民部一級建築士事務所
- [ホームページ] https://www.6611mjdwh.com






